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市川里美

子どもの発達が気になるとき      生きていく力の土台を育む

 2歳過ぎてもことばが出ない。小学1年生になって、なかなかひらがなが書けない。小学5年生になって、なかなか身の回りの整理ができなかったり、忘れものばかり。中学2年生になって、些細な友達のことばにカーっとなり、机を投げ飛ばしたり、相手をののしったりする。高校に入って、友達に話しかけることができず、ずっと一人ぼっちでいる。とてもがんばっているけれど、うまくいっていない。その背景には発達になんらかのつまずきがあることがあります。


 発達のつまずきが見られる時、大人はそれをなんとか直して、あるいは無くして、他の子どもと同じレベルにしたい、ほかの子と同じくらいできるようにしたいという気持ちになります。親も学校の先生もです。つまずきを無いものにして、心配ないようにしたい、自分が。

 大人になって一人で生活していけるのだろうか、苦手なところ、不得手なところをそのままにしてしまっていいのか。せめて人並みにしておかなければならない・・・。「子どもにはそれぞれ個性があり、それぞれの発達がある」「人と同じでなくてもいいんだよ」と思っているお父さん、お母さんでも、その気持ちは揺らぎやすい。このまま「できない」ままにしておいていいのだろうか。もっと厳しく指導したり、しつければ変わるのではないかという思いも出てきます。


 学校から「ご家庭でしっかり指導してください」と言われたり、先生が困っている様子が見えたりすると、ますます「家庭でしっかりやらなければ」と思い、子どもの今の発達のレベルに合わない関わりをしてしまうことも起こりがちです。


 しかし叱ったり、怒ったりしてもこのつまずきが良い方向に向かうことはありません。逆に子どもを委縮させ、自分らしく生きることができなくなってしまう。怒られて、叱られて、がんばっても変わりにくいものなのに、子どもが楽しいと思うことはないでしょう。では何が必要なのか。それは、生活していること、生きていることが楽しいと思えること。人に頼っていいと思えること。そして、人は自分のことを受け入れてくれると信じられること。そういう感覚を育てることが将来に必要な生きていく力となっていきます。


 怒られっぱなしで、どうして怒られたかもわからないのに、ただ謝るだけを繰り返すことになっていたり、自分の気持ちや意見を聞いてもらえなかったりすると、何をしても無駄だと思うようになってしまいます。自分は何をやってもダメなのだ、ダメな人間なんだという気持ちがこびりついてしまいます。そういうことがないようにできればと思うのです。


 人に頼っていい、ちゃんと受け入れて理解してくれる人がいる、そんな感覚が一番の生きていく力になると思うのです。

 

 薄紙を一枚一枚丁寧に重ねるように、ひとつひとつ丁寧に。子どもの気持ちを尊重し、こちらの気持ちも伝える。時折風に吹かれて重ねた薄紙が飛んでいって無力感を感じてしまうこともありますが、その関わりが生きていく力の土台を育むのだと思います。

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